
過蓋咬合(かがいこうごう)は矯正すべき歯並びなのでしょうか。前歯が隠れる程度ならば放置してもトラブルは起きないのではと思われるかもしれませんが、そのままではお口にどんなトラブルが起きるのか、治療法や日常の注意点も含めてご紹介いたします。
過蓋咬合の特徴とは?
過蓋咬合とは上下の奥歯を噛み合わせた際に、上の前歯が下の前歯を過剰に覆い隠す噛み合わせの状態を指し、ディープバイトと専門的に呼びます。正常な噛み合わせであれば、上の歯が下の歯を約2mm程度、歯の長さの4分の1程度覆う状態です。
- 上下の歯の重なり(オーバーバイト)が深い+の数値が大きくなれば過蓋咬合
- オーバーバイトが噛み合わず-の数値が大きくなれば開咬(かいこう)
過蓋咬合は2mm以上に覆ってしまったり、程度が重いと下の歯がほとんど見えなくなる方もおられます。前歯を合わせようと噛んだ際、顎へ通常以上の力がかかり、違和感や痛みを感じることもあります。
過蓋咬合の診断方法
ご自身が過蓋咬合かどうか知りたい場合、このような方法で確認できます。
鏡で歯並びをチェックしましょう
奥歯を噛みしめた時に下の前歯がほとんど見えない場合は、過蓋咬合と診断される可能性が高いです。
口を閉じたときの感覚
噛み合わせが深く下の前歯が上の前歯の裏の歯茎に当たる場合は、矯正治療を検討したほうが良いでしょう。
歯科医院での診断
思い当たる節がある場合は専門的な知識を持った歯科医師による診断が適切です。レントゲン撮影や噛み合わせの検査を詳しく行い、治療の必要性を診断します。
過蓋咬合の原因
骨格的に上顎が下顎よりも出ている方は上の顎が発達しすぎていて、反対に上顎は普通の広さなのに下顎が小さい方は下の顎が成長しきれなかった場合があります。通常より前歯の高さが高かったり、反対に奥歯の高さが低かった場合、虫歯や歯の摩耗という後天的な原因で過蓋咬合になる場合もあります。ご両親が過蓋咬合で悩まれていたならば骨格性の遺伝による可能性があります。
過蓋咬合のデメリットと放置するリスク
過蓋咬合は見た目のみの問題だけではありません。口腔内や全身の健康にも影響を与える可能性があります。
過蓋咬合のデメリットやリスク
放置すると下記のようなリスクが高まるため、矯正治療を検討することが重要です。
歯や歯茎にダメージを与える
前歯がうまくかみ合わないため、奥歯の噛みこみが深くなり、ダメージを受けてすり減りが早くなります。下の歯が上の前歯の歯茎の裏に食い込むことで、力がかかりやすく傷ついたり、上顎前突(出っ歯)になる可能性が高くなります。噛み合わせが深いということは、正しい噛み合わせの方よりも食いしばりの傾向になります。噛みしめや食いしばりを日常的に繰り返すと歯が平らに摩耗し、知覚過敏や神経露出、重症の場合は歯根破折の可能性が高くなります。
顎関節症のリスクが高まる
噛みしめなければ噛めないため、顎にも負担がかかりやすくなります。顎の負担により、顎を支える筋肉が悪影響を受け、頭痛や肩こりという症状も起きやすいです。奥歯が噛みすぎると下顎を動かしづらくしてしまい、顎関節症を引き起こす原因になります。
虫歯や歯周病のリスクが上昇
下の前歯が上の前歯の裏に当たることにより、どうしても歯茎に傷を負いやすいです。上の歯茎に力がかかり、出っ歯などの歯並びの悪さになると、歯磨きがしづらく歯垢が溜まりやすくなります。傷口に歯垢に潜む細菌が侵入すると、虫歯や歯周病のリスクが上がります。
発音がしづらくなる
前歯の位置が異なると、どうしても正しく前歯の裏のスポットに置かなければならない舌が置けなくなります。舌の動きが制限されることで、特定の発音がしにくくなることがあります。摩擦音のサ行、破裂音のタ行がその例に当てはまり、発音が明瞭になりません。
見た目のコンプレックスにつながる
上の前歯が強調されることで、横顔のバランスが崩れてしまいます。自分自身の笑顔に自信が持てなくなると精神的な健康状態が保たれず、口元を手で隠して会話をすることがあります。過蓋咬合は、見た目や歯並びの問題ではなく、精神的な健康や全身の健康にも関わります。早めに治療することで、将来的なトラブルを防ぐことができます。
過蓋咬合の方は、それ以外の不正咬合を併発していることが多いです。歯がデコボコしている叢生(そうせい)であったり、前方に前歯が出ている上顎前突を引き起こしていることがあります。
過蓋咬合の矯正方法と治療の流れ
過蓋咬合の治療は、患者さんの年齢や症状の程度によって異なりますが、矯正治療が妥当と言えます。ただし、歯列矯正は歯を動かす動的治療、歯を固定する静的治療と治療期間が長く、費用も自己負担であるため高い金額がかかります。必ず、矯正治療計画や費用の支払い方法などを明確に説明してくれる歯科医院で治療を開始しましょう。
過蓋咬合の主な矯正方法
過蓋咬合を矯正する装置の種類です。
ワイヤー矯正(ブラケット矯正)
歯にブラケットという突起を接着し、ブラケットの中にワイヤーを通して矯正力をかけて治療します。位置を細かく調整できるため、歯が原因で起きている重度の過蓋咬合にも対応可能です。約2〜3年の治療期間が必要になります。
マウスピース矯正(インビザラインなど)
目立ちにくい透明なマウスピースを装着して新しいマウスピースを交換していき、歯を動かします。軽度から中程度の過蓋咬合に適しています。一日約20時間以上の装着が必要になります。
外科手術(顎の骨の調整)
顎の骨格的な問題がある場合は、骨を削る手術が必要になることもあります。重度の過蓋咬合の方は、上顎セットバック手術を行い、過蓋咬合を矯正するという方法があります。グループ院のカトレア歯科では、麻酔専門医が状態を管理したうえで、口腔外科の院長がセットバック手術の執刀をして、日帰りすることが可能です。
前歯が隠れるからその部分のみを治療するのに、部分矯正は出来ないのかと聞かれることがあります。噛み合わせの深さが原因であるため、噛み合わせの高さを治療しなければなりません。そのため、全顎矯正と呼ばれる全体的な顎の治療が必要となり、部分矯正では難しいケースがほとんどです。
過蓋咬合を改善するための日常的なケアと注意点
矯正治療をスムーズに進めるためには、日常のケアや生活習慣を見直すことも重要です。
日常的なケア
歯ブラシのみではなく、歯間ブラシやデンタルフロス、タフトブラシなどを使用して正しい歯磨きを徹底しましょう。矯正装置が破損したり、外れるリスクを避けるため、ナッツやフランスパンなどの硬い食べ物はやめておきましょう。矯正治療中は歯の動きや細菌感染を起こしていないかなど定期的に確認しなければならないため、歯科検診を受けましょう。
生活習慣の改善
噛み合わせの悪化を防ぐためにお口ぽかんと開いた状態や口呼吸をやめ、鼻呼吸へ意識的に改善しましょう。
背中が丸まった猫背の状態は顎のバランスのずれを促進させるため、顎に負担をかけない姿勢を保ちましょう。
まとめ
過蓋咬合は見た目だけでなく、歯の健康や全身のバランスにも影響を与える問題です。放置せず矯正治療を受けることで、歯並びの改善だけでなく、噛み合わせや発音の問題も解決できます。矯正を検討している方は、まず歯科医師へ相談し、自分に合った治療方法を見つけましょう。